「女子力はどうしちゃったの」


と言うのは元ブラック本丸産の刀剣、燭台切である。
ちなみに言葉を受けたのはブラック本丸を受け継いだ鬼女である。
雨音という名の鬼女の前には何らかの黒い塊がある。
「女子力・・・ああ、人間の女性が意中の男性を打ち落とすために使う妖術の事ですね」
「違うよ!?」
雨音は黒い塊を口に放り込んだが顔をしかめる。
「・・・美味しい?」
「閻魔殿の食堂に帰りたいです」
そう言いつつ残すつもりはないのか元がなんだったのかわからない黒い塊を口にしていく。
雨音がこの本丸に着任して一ヵ月。彼女が広間で食事を摂ることは一度としてなかった。
本人曰く「やっと訪れた平穏なんですから刀剣水入らずで過ごしてください」との事だ。
出陣も初日に言った通り本人が金棒片手に戦場に行っていたが途中で戦好きメンバー(主に同田貫と御手杵、時々和泉守)が着いていくこともあり、彼らとは酒を飲む仲になっている。

『戦場で培う友情もあるんですよ』

とは雨音の言葉である。
「恥ずかしながら私、少々不器用でして・・・」
「うん、見れば分かるよ」
彼女は鬼だ。けれど地獄から救い出してくれた恩人でもある。というか本人が地獄から来ている。
「ねえ。雨音さんが良かったらなんだけど、僕達と一緒にご飯食べない?っていうかそのしょく・・・じ・・・?食事らしきものを見てるとすごく心が痛む!」
「何でしょう、とてもいい提案をしてもらったはずなのですが心が痛みますね」
拷問大好きでちょっと不器用なだけだ。大目に見てもらいたい。
「では皆さんがそれでいいと仰りましたら今晩からでもお願いします」
「勿論。それが無理でも君の食事の準備はさせてくれないかな?」
「本当ですか?それはとてもありがたいです。流石に1ヵ月炭のようなものを食べるのはつらかったので」
雨音がそう言って笑うと、「君って年いくつなんだい?」という至極まっとうとしか言えないツッコみが燭台切から入った。


おぎゃー、おぎゃー。
泣き続ける金魚草に如雨露で水をやる雨音。
「・・・雅じゃない」
「そうですか?可愛いと思いますけど、金魚草」
雨音がそういうと歌仙は鬼女の顔と金魚が生えた植木鉢を交互に見てから震えた声で「金魚草・・・?」と尋ねる。
「はい、地獄の金魚草です」
「全力で金魚を主張しているね」
ゆらゆらと揺れる金魚草を見て歌仙は引いている。
「一応食用でもありますのである程度の大きさになったら皆さんで食べましょうか。オススメの食べ方は生け作りです」
「食用!?」
歌仙の目は「これを食べるのか!?」と雄弁に語っている。目は口ほどに物を言う。
「大きさを競う大会なんかもありますし、地獄では愛好家も多いですよ。私はそこまでは流石に出ませんが上司が育てているのもあって興味をもちまして」
そうしたら思いのほか可愛くてですね、と如雨露をしまいながら雨音が言う。
「雨音殿の話を聞いていると地獄の印象が変わるようだよ」
「あはは、普通の人は地獄と言えば罪人が落ちる怖い場所っていうイメージがありますし、実際そういう場所ですからね。けれど地獄っていうのはそれだけじゃないんですよ」
雨音は空を見上げて目を細める。本日も良い天気である。
「獄卒になってから何度か現世には出張していますが、太陽というのは凄いですよね。最初は眩しくて倒れてしまいました」
「地獄はやはり暗いのかい?」
いつのまにやら二人は縁側に腰掛け本格的に話す体制に入っている。
そこに乱がやってくる。
「あ、雨音さんに歌仙さん。何の話をしてるの?」
「地獄の話を少々」
ボクも聞きたい!という乱を隣に座らせふむ、と顎に手を当てる。
「では何の話をしましょうか」
「はいはい!雨音さんはここに来る前はどんな風に仕事してたの?」
「私は衆合地獄で働く獄卒です。就任して2500年くらいですかねぇ」
2500年!?と乱と歌仙の声が重なる。刀剣男士も三日月宗近や鶯丸らと言った平安組が最年長であるがその倍である。
「え、と衆合地獄っていうのはどんな場所なの?」
「例えば言葉巧みに異性を惑わして何人も食い散らかしたり女性を酔わせてファイト一発したような性犯罪の罪人が落ちる地獄です。就職のほとんどは女獄卒です。私は拷問を担当していました」
重要機密に引っかからない程度の内容で話される雨音の【地獄の話】は歌仙と乱を惹きつけた。
地獄は彼らが思うほど恐ろしい場所ではなく、そして彼らが思う以上に厳しい場所だった。
彼女の話を聞くのはとても楽しい。
「あら、もうこんな時間ですか。長話をしてすいませんね。年を取ると話が長くなってダメですね」
「ううん、そんなことなかったよ。雨音さんの話、凄く楽しかった。ね、歌仙さん」
「ああ。乱の言うとおりだ。雨音殿が良ければまた話を聞かせてくれないか?」
それくらいならいつでも大丈夫ですよ、と雨音は微笑む。
「では私は今から同田貫さん、御手杵さんと戦場巡りに行ってきますので」

「「待って」」

本日の出陣に乱と歌仙が増えたのは言うまでもない。


「御手杵という槍は突きに特化しているんですね、なるほど」
御手杵の本体を眺めながら雨音が言う。ちなみに現在厚樫山帰りである。
「お、おう。そうだ。切ったり薙いだりは出来ねえけど突く事だったら負けねえよ」
「なるほど。見れば見るほど皆さん素敵な武器ですねえ。特に同田貫さんと歌仙さん、よければ地獄に就職しませんか?御二方の切れ味、亡者の拷問に使えるかと。御手杵さんもよろしければ是非お願いします。自分の体に槍が突き刺さったままというのも中々精神にクる拷問だと思うんです」
声をかけられた三人は引いている。
「和泉守には声かけたのか?」
「だってあの人新撰組の姫ですよ?堀川さんに着替えの手伝いとかしてもらってるんですよ?地獄がそんな甘っちょろい精神で務められると思ってるんですか?その点皆さんでしたら安心して仕事を任せられそうなんですよね」
その言葉に四人は「ああ・・・」と言う気持ちになる。
「っていうかボクは!?何でボクの事は雇おうとしてくれないの!?」
仲間外れはやだ!という乱に雨音は困ったように笑う。
「短刀は守り刀でしょう?拷問と言ったようなことをさせるのは流石に忍びないと言いますか」
「僕には平気でさせるのかい?」
歌仙が不服だと言わんばかりに声をあげる。
「だって貴方三十六人も首刎ねてるんですよ?地獄にうってつけじゃないですか!いいですね、三十六歌仙地獄。延々首を切り落とされるとか!」
「雅じゃない!!」
だんっと歌仙が足を踏み鳴らす。
「それにしても厚樫山ですか。この地の名を聞くと義経公を思い浮かべますね」
それをさらっと無視し雨音は山の景色を見回す。
「地獄でもそういう偉人連中は有名なのか?」
同田貫が雨音に尋ねる。
「いえ、というより義経公と弁慶殿は今地獄の警察で働いてますから」

マジかよ。

彼らの心は一つになったという。