「女子力はどうしちゃったの」


メガネをかけた着物姿の女はそう言ってから彼らに頭を下げた。





右手に金棒、左手に殺したはずの前任を鷲掴みにしながら。






この本丸は、ブラック本丸と呼ばれる場所だった。
過剰な進軍に、収集癖、そして夜伽。テンプレートにプラスして増し増ししたようなブラック本丸だった。
しかし前任は死んだ。殺された。刀剣男士達の呪いが前任を蝕み地獄へと送ったのだ。
それなのに何だこれは。

地獄から来ました?

何で金棒?

それよりも何で殺したはずの前任が居るんだ?(白装束だが

っていうかこの女頭に角生えているぞ?

ブラック本丸の刀剣達は混乱した。
何だこれ。
「その、君は、鬼、なのだろうか?」
「はい。鬼です。地獄から来ました。獄卒ですが本日よりこちらで働くよう上司に言われました」
鬼、という言葉に肯定した瞬間気の弱い短刀達から短い悲鳴が上がる。
「やめてください!私を鬼が島に住んでいるような疫病を流行らせるような汚い輩と一緒にしないでください!私は地獄の亡者共に罰を与える清く正しく毎日の仕事に精を出す鬼です!」
左手に掴んでいた前任を畳に叩きつけ彼女は叫ぶ。
「ではこうなった経緯をお話ししましょうか」


「雨音さん、一週間後から現世で仕事をしてきてください」
「はい!?鬼灯様、現世で仕事ってどういうことですか?」
閻魔大王の第一補佐官、鬼灯の言葉を受けながら雨音と呼ばれた鬼女は亡者の頭を金棒で殴りつぶす。
ついでに股の間にある男の象徴を足で踏みつけてやる。金棒を持ち上げれば亡者の頭はすっかり元通りである。
男の象徴も使い物にならなくしてやりたいがあいにくここは地獄、拷問で傷付いた体はすぐに戻ってしまうので意味がない。・・・いや、何度でもその痛みを与えることが出来ると言う時点で十分に意味はあるか。
雨音はそう思い直して思い切り踏みつけてやる。

何を隠そうこの鬼女、鬼灯程ではないにしろ拷問中毒である。

新人獄卒の茄子を見て鬼灯は獄卒向きの性格だと言っていたが彼女も彼女で獄卒向きである(主に拷問に対するバイタリティや妙にポジティブな所等)。
「最近現世で戦が起きているのは知っていますね」
「ああ、歴史修正主義者とそれを止める審神者でしたっけ?正直そういうの困りますよね。こっちは長い時間かけて裁判しているというのに」
歴史が変わることで捌いてきた亡者共の罪が変わってしまうこともある。
「それだけではありません。審神者が力を借り受けているのが付喪神の分霊なのですが・・・」
「あー・・・それも議題に上がりましたね。審神者専用の地獄も出来たくらいですし」
ブラック企業ならぬブラック本丸。
ブラック審神者の多さに地獄でもとうとう審神者専用地獄が出来上がったくらいである。
勘弁してほしい。
「そのことで先日現世に行ってきたのですが、どうやらまだそれらが改善できていないようでして」
「何度か現世出張があったのはその為だったんですね」
「と、いう訳で雨音さん。貴女は一週間後から審神者です」

「何故!!」



「・・・という訳でしてね。地獄から見て審神者という方々がきちんと仕事をされているのか、歴史の修正がどの程度影響を及ぼすのかを把握しておきたいという事情からわたくし、雨音が僭越ながら審神者を務めさせていただきます」


何が「と言う訳」なんだ!!!


刀剣男士の心が一つになった瞬間である。
「そ、その・・・あまね、殿?」
「はい、何でしょうか一期一振さん」
血液がこびり付いた金棒と、死んだはずの前任を交互に見やりながら一期はようやく口を開く。
「貴女が地獄の鬼だという事は、その、了解しました。しかし・・・それは?」
「コレですか?貴方方の前任です。亡者です。皆さんの呪いで死んだあと裁かれ審神者専用地獄へ堕ちました」
雨音は笑顔で男の首に手刀を落とす。すると前任はハッと目を覚まし雨音に食って掛かろうとする。
「テメエ!この俺に何しやがった!!」
「――っ!」
一期が抜刀するより早く、雨音の金棒が男の頭を叩き潰していた。
目の前で起こった惨劇に、誰も言葉を発することが出来ない。
叩き潰されたはずの男の頭はいつの間にか元に戻っている。
「誰が貴方に発言を許可しましたか?貴方は地獄に落ち、十王により裁かれました。貴方の罪は数年で償えるものではありません。これから何十年、何百年、何千年と罪を責められ続けるのです」
そのまままた気絶してしまった男には目もくれず雨音はニコリと笑って刀剣男士達を見やる。
「まあこういった形で皆様に対して暴虐を行った罪を償わせております」
「その・・・凄いですね・・・金棒・・・」
猛スピードだった。誰も反応できない程度には。
「あらやだ、すいません。はしたないですね。他の鬼女に比べて力があるものでついつい」

照れるとこじゃねえよ。

刀剣男士の心がさらに一つになっていく。
「まあこれは地獄に送り返すとしてですね。まずは本丸を整えるところから始めたいと思います。これには皆様の協力もいただきたいと思っていますのでどうぞよろしく」
お願いします、という言葉は風を切る音でかき消される。
「お主が鬼であろうと我らはもう審神者には従わぬ。殺されたくなければ帰るがよい」
三日月の言葉に刀剣達から殺気が膨らむ。
「出来ません。これは上司より直々に命じられた仕事ですので。皆さんが戦いたくないと仰るのであれば貴方方を刀解し、私が一から本丸運営をするだけの事です」
そう言うと雨音は三日月の三日月を掴むと軽々と取り上げ、投擲の要領で庭に向かってぶん投げる。
「後鬼女に向かって殺すだなんて物騒ですよ?私、これでも衆合地獄では誘惑ではなく拷問担当していた鬼女なんですから。公務員に手を上げてはいけません」

そこじゃねえだろ。

鬼女の正論なんだか何だかよく分からない言葉で更に刀剣男士の心は一つになっていく。・・・が当の本人は男士の心知らずである。
「それにほら。皆さん外を見てください。晴れてきました。この様子じゃ陽の光を浴びるのも久しぶりでしょう?少し日光浴をして落ち着いて、それから色々考えた方がいいですよ。神様にも休みは必要です」
「え・・・ボクたち、休んでいいの?」
恐々、と言ったように乱が口を開く。
「何を言ってるんですか!当たり前でしょう!地獄だって福利厚生に休日はしっかりあるんですよ!?私たち獄卒をブラック企業と一緒にされては困ります」
ふふん、と得意げに笑いながら雨音はメガネを上げる。
「・・・地獄って怖いところじゃないんだ」
「ええと、乱さんですね。地獄というのは罪人に罪を償わせる場所です。現世の人間に怖い場所、恐ろしい場所と思われるのも私たちの仕事の一つです。まっとうに生きた人間は天国に行くことも出来ますし、現世に転生することも出来ます。罪を重ねた人間はその罪に応じた地獄に落とされます。ですから怖いところという認識はある意味正しいですよ」
それを聞いてなんだかふ、と胸のつかえが取れた気がした。
「そこに倒れたままの前任は、地獄に堕ちたの?」
「ええ。審神者専用地獄です。ちょっとした阿鼻地獄みたいなものです。泣こうが喚こうが拷問は続きます」
自分たちがしたことは、間違っていなかったのだ。
「この様子じゃ自分の罪を認めないでしょうから更にひどくなるでしょうねぇ。あ、そろそろ地獄に返しておきますね」
雨音がカチカチとメールを送るとお迎え課がやってくる。
「お疲れ様です。無理言ってすいませんでした」
「いえいえ、雨音さんこそお疲れ様です。ではコレは地獄へ届けておきますので」
「お願いします」
前任をお迎え課に任せ、雨音は放り投げた三日月(本体)を回収して彼に渡す。
「とにかくみなさん、手入れを受けてお休みしてください。こちらの状況は把握しておりますので1ヵ月くらいゆっくり休んだ所で問題はありませんよ。その間の出陣は私に任せて下さいね」

新しい審神者は、地獄から出張してきた鬼女でした。