強敵はストレス性胃炎
・さにわが吐きます
・とにかく吐きます
・ひたすら口も悪いです
・兄貴絶対殺すウーマン
・まんばごめん
・じじいもついでにごめん
・こんのすけが一番の被害者かもしれない
昔からよく言われることがある。
「貴女は要領がいいわね」「手際がいいわね」「才能があるわね」
まあ確かに一度言われたらそれなりにこなすし、ある程度器用さもある。
・・・・・・しかし褒め殺されたからと言って簡単に治らない物もある。
「うえええ・・・・」
「どうしたらいいんだ・・・」
頭を抱える付喪神のド真ん前でごみ箱を抱えて嘔吐なう☆
このストレス性胃炎だけはどうしても、何をやっても、治らないんだよ・・・。
どうしたらいいはこっちのセリフだっつーの!
治せるならこれを治して見せろや神様よぉ!!
事の始まりは数日前。
政府のエリート様が我が家の門をくぐった事だった。
今世間を騒がせている歴史修正主義者。それを阻止することができる審神者の依頼を兄にしに来たのだろう。
普段はおちゃらけて人様に迷惑をかけてばかりの兄だけれど、霊力だけは非常に高いし呪を扱う能力にも長けている。
(人間性はともかくとして)能力は申し分ないのだろう。
政府のエリート様方を客間に案内し、兄を呼ぼうと部屋へ向かった瞬間・・・逃げた。
奴は逃げたのだ。まるで風のように、いや、風よりも速く、だ。
政府に尻尾なんてふらねーよ!という捨て台詞まで吐きやがった。
慌てて式神を放って追いかけさせるも奴の方が一枚上手・・・というよりは逃げ足が速すぎた。
式神はきゅうきゅうと標的を見失ったことに悲しげに鳴いているし、立派だった庭はヤツが逃げるための犠牲(父が発狂したので表現はオブラートに包んでおいた)になったし。
どうするどうなる。
そこで私に白羽の矢が立った。というよりこの父は仮にも当主様で家を離れられないし、母の霊力は微弱。
・・・・・・私が行かざるを得なくなった。
政府とのコネがなくなるのが怖いんだって!嫌だね!大人の世界ってやつは!!
嫌だ無理だとゴネた所でとても素敵なマッチョメン二人に抱えられてあっという間に審神者の仲間入り。
兄貴は後で必ず殺す。覚えてろ、地の果てまで追いかけて必ず殺してやる。
ああ、立派なご邸宅ですね。今日からここに住めと。そして戦えと。
それを考えただけでストレスマッハ。胃がきりきりと痛む。
後で部屋に置きっぱなしにしてきた胃薬送ってもらおう。
サポート式神こんのすけのしっぽをもふもふしながら最初の刀剣を選んだ。
そんで、ストレスが頂点に達して、吐いた。
ごみ箱を常備しておいてよかった。というか何より先に用意してもらった。
吐くって分かってたしね。もうね、疲れたよね。
終わらせていいかな、アニラッシュ。いいえ、兄ラッシュを殺すまでは生きなきゃだめよ。
胃の中身を全部戻して・・・どころか胃液も吐いてからなんとか顔を上げる。
金髪の同年代位の兄ちゃんが真っ青な顔でこちらを見ている。
「・・・どうも今日から貴方の主になる者です」
ぜえぜえ、吐くのは体力がいるもんだ。
肩で息をしながら挨拶をすると彼がびくっとする。
「こんのすけ、ちょっと待っててもらって・・・口の中が苦い・・・気持ち悪い・・・ゆすいでくる・・・」
「は、はい・・・」
心なしかこんのすけも涙目になっている気がする。
ふらふらと立ち上がり台所に向かう。
いくらほぼ毎日吐いてるからと言って慣れるもんでもない。
元々胃が弱かったところに周囲からの過度な期待、その期待に応えなければいけないというプレッシャーが胃炎を引き起こした。
・・・その上、家系が悪かった。
父側の桁外れな霊力をほぼ受け継いでしまったせいか更に胃にダメージを与える結果となってしまったときたものだ。
兄と私でどちらが霊力が高いかと言えば私。でもうっかり外で使うとストレスマッハで嘔吐するので仕事に向いているのは兄。人格破綻してるけど。
だから私はいつも家の中でニコニコ笑いを貼り付けて加持祈祷。
それでよかったんだよ!私の世界は家の中でよかったんだよ!!っざけんなくそ兄貴!
兄貴絶対殺すウーマン化しつつ、大広間に戻る。
「では改めて。本日から貴方の主となる者です」
にっこりといつもの営業スマイルを向けると金髪の兄ちゃんは不審な目を向けてくる。
まぁ出会いがしらに吐かれたらそりゃあ不審者にもなるか。
「山姥切国広だ。・・・俺が写しだから、気持ち悪くなって吐いたんだな」
「は?」
おおう、これはなかなか厄介なモン出しちゃったんじゃないですかね。
日本刀の違いとかよく分からないから神様の言う通りで決めちゃえー☆とかやるんじゃなかった。調べるべきだった。
「写しって何」
「山姥切そっくりに作られた偽物だ」
光の消えた目でそう吐き捨てるが「だが俺は国広の第一の傑物なんだ」だとか続けている。
おいおい、兄ちゃん。拗らせぎじゃないっすかね。
「私が吐いたのは体質なんで気にしないでください。山姥切国広様」
まぁ曲がりなりにも相手は付喪神。神様。神職と言えど、というか神職に就くものだからこそ相手は敬うべきだ。
「例えコンプレックス拗らせまくって精神ねじれてても神様だもんね、一応敬いの心くらいは持たないとね、一応私も神職だもんね」
「おい、全部口に出してるぞ」
おおっと痛恨のミス。
「山姥切国広様の聞き間違いでは?」
視界の端でこんのすけがため息を吐いているのを横目で見ながらまたも営業スマイル。
てめえ後でそのふさふさしっぽをバケツに突っ込むからな。
場の空気はブリザード。だから外に出たくなかったんだよおおおおお!!!
「で、ではもう一本鍛刀いたしましょう!このまま戦場に行くのも主様のお体に障りますから!!」
なんだ、きつね。お前やれば出来るじゃないか。サポート式神は伊達じゃねえな。
「そうですね。山姥切国広様だけに負担をかけさせるわけにはいきませんもの」
ほほほ、と特上の作り笑い。
一人と一本(?)と一匹(?)で鍛刀場に向かう。
「えーと、めんどくせーからてきとーにっと」
「だから口に出してるぞ」
「気のせいでしてよ」
4時間。
「わー、ずいぶん長いこと」
「手伝い札を使われてはいかがですか?」
こんのすけが渡してくれた手伝い札を鍛冶妖精さんに渡せばあっという間☆
「俺の名は三日月宗近。まあ、天下五剣の一つにして、一番美しいともいうな。十一世紀の末に生まれた。ようするにまぁ、じじいさ。ははは」
何かすげえの出た。
天下五剣くらいは私でも知ってる。何でこんなん出たん?
ああ、苦いものがせりあがる。
山姥切国広の方を向いてふっと微笑む。つられたのか何なのか山姥切国広も微笑み?らしきものを見せてくれて・・・そのまま、胃液を吐いてぶっ倒れた。
私の道のりはまだまだ長い。後絶対に兄貴殺す。