人を嫌う山伏とバカ正直な新人の話
「では、貴様らが我々を救うと、そういうのだな、人間」
「はい!」
「殺すぞ」
先輩の容赦ないグーパンチで、私は今「神様と約束してしまった」と理解した。
「赤冷さん。今から初仕事です。ブラック本丸の浄化作業です」
「え、初仕事でそれってキツくないですか」
先輩・・・雪澪さんがいつもの表情のない顔で言う。
「ある程度は落ち着いてるし私たちの仕事は本丸の浄化と刀剣男士達の穢れ祓いだけだから変な事を言わなければ直ぐ終わる。それより赤冷さんアホだから神様と変な約束しないでくださいね」
分かってますよーと先輩に言っていたというのにだ。
隣にいる先輩の顔がヤバいことになっている。「見せられないよ!」札を置かないといけないような顔になっている。
ここは元々ブラック本丸で、暴虐の限りを尽くした審神者は、死んだ。
山伏国広様が契約を破って殺したのだ。
その遺体は「あ、これもうダメだな」と言いながら先輩が庭に投げ捨てて政府に回収するように連絡していた。
ブラック本丸で稀に起こる「主殺し」には契約の関係もあり殺した刀剣男士に相当な負担がかかる。
それ故か主殺しを行うのは三条派が多い・・・らしい。彼らは他の刀剣男士達と神格が違う。長い年月を生きている付喪神なのだ。
先輩は珍しい山伏も居たもんだなぁと呟きながら資料をめくっていた。
彼女は元々審神者に成る予定だったのだが本人曰く「性格クソ悪くて見習い試験通らなかった」らしく、現在は別の本丸に居たにっかり青江様と共にいくつもの本丸の浄化作業を行っている。
とても真面目で実直で・・・憧れの先輩である。これで年下なのだから世の中才能の分配が可笑しい。
まずは本丸の浄化の許可を得ようと刀剣様達が集まっている広間へと向かった。
彼らと対面した瞬間、委縮した。
向けられた多数の目には負の感情がたくさんあってその目に見つめられているだけで冷や汗が流れる。
先輩はそれすら気にせずに現状と浄化の許可を得に来たという話をし始める。
山伏様はこの本丸ではリーダー格のようで、奥に座っている。
その神々しい姿からは、似つかわしくない穢れは主殺しの代償なのだろう。
そこで私はやらかした。
山伏様の言葉に元気よく返事をした。
先輩にぶん殴られて、ようやく私達は山伏国広という神様と約束してしまった事を理解して、絶望した。
神様との約束を破ることは許されない。
その先に待っているのは死だ。私だけではなく先輩と青江様まで巻き込んでしまったことに顔が青くなる。
「まあ言ってしまったものは仕方ない。・・・赤冷さん、きっちりやってください」
副音声で「やらなきゃ殺す」と聞こえた気がするし、先ほどの言葉はルビなんじゃないかと思っている。
ぶんぶんと首を縦に振って、私の初仕事が始まった。
先輩は一人で本丸の浄化をするからと青江様を私の護衛に置いて行ってくれました。
優しさなのか、本気で青江様が邪魔なのかが分からないのが先輩らしいところだと思っています。
「それでは皆様、本体の穢れ祓いをさせていただきたいと思います」
先輩たちに叩きこまれた所作で頭を下げれば頭上からはざわざわとした声が降ってくる。
青江様は助けてくれないみたいです。本当に先輩大好きですよね、この人。
「人間よ、貴様を信じろと?」
「わ、私は先ほど確かに勢いで返事をしました。けれど貴方方の穢れを祓い、そして要望を叶えたいというのは本当です。刀解を望まれている方も居ると聞きました。今のままでは本霊へと還れません。どうか私にお任せください」
そう言ってもう一度頭を下げる。
今度は頭上からクスクスという笑い声が聞こえてくる。これは青江様ですね。
「僕、主からこんな命令もらってるんだ」
ごそごそと何かを引っ張り出す音と紙がこすれる音。
「・・・なるほど」
山伏様、何がなるほどなのでしょうか?
恐る恐る頭を上げる。
青江様が持っていた紙には「死ぬ気でやらなきゃ物理的に首は無いと思えよ(できればこの紙は出したくなかったけど保険として青江に命令文として持たせておくのでがんばれ)」と書かれている。
門前の神様後門の先輩。
私の命は今デッドオアダイです。死ぬか死ぬかを選べと言われています。
「・・・少し待っていてください!大広間の汚れを落としてきます!」
いくら先輩が本丸全体の穢れを祓うとは言え、汚れは気になる。
全速力で部署に戻って清掃用品を抱えると全速力で本丸へ戻り、大広間の障子を勢いよく開ける。
「げほっ・・・うええ、埃!埃凄い!」
「ああ、本当だ。ずっと使われてなかったんだろうね」
ちゃっかりマスクを付けている青江様が笑う。
「さて、赤冷さん?君はどうするつもりだい?」
「まず大広間を掃除して、綺麗にします。それから皆さんの穢れ祓いをしてこちらの部屋に移ってもらいます。汚れた部屋じゃ心まで落ち込みます!」
この年代でも大活躍するダス●ンの掃除用品は流石である。ハンディモップは埃を全てからめ取っていくし、ダ●ソンの掃除機は吸引力が変わらない。
これでも掃除は得意な方なので2時間ほどで大広間の掃除を終える。
そのまま一度禊をしてから刀剣男士様達が集まる広間に戻る。
「皆様の穢れ払いを行います。大広間の掃除が終わっておりますので終わりましたらそちらへの移動をお願いいたします」
そう言ってから頭を下げた瞬間、首元にひやりとした物が当てられた。
「って言っても皆そう簡単には信じられないよね。先ほどの命令文、彼女が変な事をしようとしたら僕は彼女の首を落とすように主に言われているんだ。・・・はっきり言ってここの穢れなら主一人でどうとでもなるんだよ?」
最後の一文は私にだけ聞こえるように。青江様怖い。っていうか先輩いいいいいいいいいいいいいいいい!
怖いよ!めちゃくちゃ怖いですよ!!
やらなきゃ死ぬし失敗したら死ぬってどんな積ゲー・・・!
そんなことを思いながら深呼吸して穢れ祓いの祝詞を唱え始めた。
「赤冷さん?もう大丈夫だよ」
どのくらい唱えていたのか、時間の感覚がさっぱりない。
刀剣男士様の「浄化の力は凄いんですね」という言葉で、穢れが祓い終えた事に気付く。
お、終わった・・・。
「それでは皆様、大広間へ。屋敷の方もこちらで掃除をさせていただきますので、そちらでおくつろぎください」
立ち上がり、刀剣男士様方を案内しようとした瞬間、刺すような気配に振り向いてその気配の元を・・・山伏国広様の本体を押さえつける。
「青江様!先輩を呼んできてください。まだ・・・まだ山伏様の穢れが祓い切れていません!」
「ああ、これは酷いね。山伏君、少し待っていてくれるかい?」
祝詞を唱えながら山伏様の顔を見上げれば、表情は硬くこわばっているがその顔には脂汗が浮かんでいる。
そうか、これが呪いか。
彼らは散々心も体も痛めつけられたのにまだ苦しまなくてはいけないのか。
ただただ必死に祝詞を唱える。
この人は救われなきゃいけない。違う、私の命を削ってでも浄化を完了させなければいけない。
バタバタと足音が聞こえたのを最後に、ふっと意識が遠のいた。
深い暗闇の中で、私は腕に山伏国広を抱えていた。
逃げないと、と本能的に思う。どこへ逃げればいいのかなんて分からない。それでも、山伏様だけでも逃がさないと、と私は駆け出す。
それを嘲笑うように黒いドロドロとした刃が私を切りつけ、手のようにしなった鞭は山伏様を奪おうと私に襲い掛かる。
ダメだ、これだけはダメだ。
「・・・っ!ああああああああああああああああああああああああああ!!」
鋭い痛みが足に走る。左足が、太ももが、なくなって。
走れなくなった。それでも私は山伏様を守るように体を丸める。
痛みと熱さで体がガタガタと震える。刃は私の体を傷つける。
ゆっくりと嬲ることに快楽を見出したのだろう。先ほどから付けられる傷は急所を外している。
このドロドロとした黒は山伏様を狙っている。
きっと、先輩が山伏様を助けてくれる。私が出来ることは助けが来るまで山伏様を守ることだ。
ガタガタと山伏様が揺れる。
「助けます、絶対に。あんなのに山伏様を連れて行かせてたまるか!!」
「うんうん、君のいいところはそのバカ正直な所だと思うよ」
聞きなれた声と共に闇が消える。
「あ、起きた?」
先輩の軽い声に、寝ていたのかと首を傾げる。
嫌にリアルな夢だったな、と思った直後
「赤冷さん、あの状況でよく山伏様を守り切りましたね。お手柄です」
夢だけど夢じゃなかったようです。
その証拠に私は腕にがっちりと山伏様の本体を抱えていて、山伏様本人はこわばった表情で座ったままだ。
「も、申し訳ありません、山伏様!」
慌てて抱えていた山伏様の本体を返すと山伏様は気になさるな、と言って受け取ってくれる。
切り落とされた足に触れる。あれは夢だったから左足はきちんと存在しているけれど、あの時青江様が助けてくれなかったらどうなっていたのか、と考えるとぞっとする。
「後輩の不手際により申し訳ありませんでした、山伏国広様。こちらの片づけは我々に任せてどうぞお休みくださいませ」
「・・・あいわかった。本日の穢れ払い、感謝する」
「いえ、我々は同族の行いの償いをしているだけです。お気遣い感謝いたします」
山伏様が去って行って、ようやく私は大きく息を吐く。
「青江、赤冷さんの穢れをお願い。私は結界安定させてくるから」
「任せてよ、主」
先輩はそのまま部屋を出ていく。
「赤冷さん、大丈夫?ほら、深呼吸してごらん。落ち着くから」
「は、はい」
今になって体に震えが来る。怖い、怖かった。
「初仕事が大仕事になっちゃったねえ。まさか山伏君にあんな呪いがあるなんて僕達も見誤ってたよ」
「いえ。大丈夫です。あの・・・あれは夢じゃなかったんですよね?あの黒い奴は・・・山伏様を狙って?」
「ああ、そうだね。あれは殺された前任者の怨念さ。死んでも尚・・・いや、死んだからこそ自分を殺した山伏君を狙ってるんだ」
青江様のその言葉に思わず唇をかみしめる。
「そんなの、許せないです」
「うんうん。僕も主もそう思ってるよ。君があの中で山伏君を守りきったおかげで、大分呪いも力を削がれたみたいだ・・・だけど、どうやら君も標的に入ったようだから気を付けて」
青江様が言うには、前任の怨念は山伏様を殺す!という所から山伏様を守った私もまとめて殺す!になったらしい。嫌な進化だ。
「君は心を強く持てばいい。さっきみたいにね。所詮相手は死人なんだ。生きている君が負ける道理なんてないんだ」
それから青江様は軽くお祓いをしてくれる。
「じゃあ明日から頑張らなきゃね」
にっこりと、多分死刑宣告。
翌朝は5時に起きて刀剣男士様方に食べていただく朝食を作り始める。
気が付いたら厨に山伏様が居たのには驚いた。多分変な物を入れないように見張っていたんだと思う。
「おはようございます、山伏様。お体の調子はいかがでしょうか」
「何をしている」
「皆様の朝食を用意しておりました。あ、もちろん変な物を入れるような事はしていませんのでご安心ください!しろと言われれば毒見もいたします!」
何も言わなくなってしまった山伏様に頭を下げて朝食の用意に戻る。
先輩と青江様も起きて来て配膳の手伝いをしてくれたおかげで予定よりも早く終わる。
刀剣男士様方は用意された朝食を見て困惑していたし、毒を入れたのかといぶかしがる方もいました。
当たり前だ。彼らはそう言った状況で生き抜いてきたのだから。
よっしゃ毒見だ!と言いだそうとした時
「皆の者、この人間が作った朝餉には何も入ってはおらぬ」
そう言って席について箸を持ってくれる。
「あ、ありがとうございます!山伏様!!」
ぶおんと音が出そうな勢いで頭を下げれば先輩から「埃舞うから落ち着け」と言われた。
その後先輩は一度ヅラ部長への報告の為に現世へと戻り、私は青江様に刀剣男士様方の様子を見ていてほしいと頼んで本丸の掃除に入る。
私は掃除が好きだ。大好きだ。
今の世の中楽に掃除が出来るようになったし、掃除用具も進化を続けている。
でも私は手作業が好きだ。手作業で行って、終わった後の達成感が好きだから、と言うのが理由。
雑巾がけも脳内で競馬実況をしながら楽しく作業できるタイプだ。ちなみに先輩からは「変人だ・・・」と言われた。
これは先輩にだけは言われたくない。先輩も相当変人だからだ。
部署内でもトップに君臨するレベルの変人だと思っている。
部長のヅラを奪って投げたという噂も噂じゃなくて本当にやらかしたことだと思ってる。
たったったったと軽い音を立てて長い廊下を走る。
放置されていた廊下も汚れは酷く、定期的に自分の足も拭かないと汚れをまき散らしてしまう。
ふと視線を感じたと思えばその先には山伏様。
「山伏様、いかがされましたか?あ、御見苦しいところを申し訳ありません」
山伏様がすっと近づいてきたかと思うと首元に当てられた刀。
「泣きわめき、逃げぬのだな、人間よ」
「ええ。山伏様に私を殺すつもりがないのは分かっていますので」
そう言えば山伏様は訝しげな表情を浮かべる。
「貴様は相当変わった人間だな」
「はい、よく言われます」
その答えに山伏様は・・・困惑したようだった。
「我々の邪魔はするな」
「・・・掃除はさせてくださりませんか?」
山伏様の困惑は強くなる。そして我々は刀解を求めているのにここを掃除する意味はあるのかと問いかけてくる。
「あります。皆様が刀解を求めていることは知っています。それでも、それまでの間、せめて良かった事があればいいと思っています。その為に出来る事なら料理も掃除もやります。全力でやり遂げます。私は色んな人に前しか見られない大馬鹿野郎だって言われていて、それを自覚しています。それなら、大馬鹿野郎らしく生きてやるんです」
山伏様の紅い瞳が私を射抜く。
何て美しい人なんだろう。純粋にそう思う。
刀剣男士の中で最も美しいとされているのは三日月宗近様だ。確かにあの方の美しさはこの世のものとは思えないものであるが、山伏様の美しさはそれとは違ったものだ。
三日月様とは違う、男性らしい美しさと逞しさ。この神様の素晴らしいところはここにあるのだと、勝手に思っている。
どこまでもまっすぐで美しい輝き。眩しいなあ、と思うのだ。
「それでは掃除に戻らせていただきますね」
ぺこりと頭を下げて廊下の雑巾がけに戻る。
・・・まだ、山伏様は私を見ていた。
それから一週間、私は泊まり込みで掃除に食事作りに穢れ払いにと働き続けた。
刀剣男士様達はほんの少しだけ私に心を開いてくれたのか、手伝いを申し出てくれたり花をくれたり。
その度に「何て優しい神様なのだろう!」と感激していると、苦笑が返ってきた。
山伏様は話しかけてくることは少ないものの、こちらを見ていることが多い。
やっぱり人間には何か思う所があるのだろう。
「アンタは何故審神者にならなかったんだ?」
掃除の最中、山姥切国広様に声をかけられる。
「霊力はあるんですけど、多数の刀剣男士様を顕現できるほどの量がないもので。浄化の方は出来るので浄化部に配属されました」
その答えに山姥切様は少し眉を下げる。
「アンタが、主になってくれたらいいのにな」
「・・・・・・ありがとうございます。お言葉はとても嬉しいですが、私ではおそらく十振り程度の顕現が限界なんです」
そうか、と山姥切様は悲しそうな声。
「アンタのおかげで、兄弟・・・山伏国広は随分と元の明るさを取り戻したように思う。その、すまないな」
「いえ!これも私の仕事の一つですから!ですが、感謝のお言葉、ありがたく受け取らせていただきます」
深く頭を下げれば山姥切様がふっと微笑む。それから埃が付いているぞと自らが被っている布で私の頬を拭ってくれる。
「あああ、申し訳ありません!山姥切様のお洋服でそのようなことを!今すぐ洗いますので!」
「い、いい!気にするな!俺は汚れているくらいがちょうどいいんだ!!」
「そんな事おっしゃらないでください!山姥切様はとても美しい神様でいらっしゃるんですから!」
「綺麗とか言うな!!」
布の引っ張り合いをしていると後ろから「楽しそうだな!」という鶴丸様の声が聞こえて、山姥切様諸共庭に落ちる。
「つ、鶴丸様・・・後ろからは卑怯ですよ・・・」
埃を落としながらそう言えば真っ白な神様は愉快そうに笑う。
「ああ、もう、山姥切様も汚れてしまいました。やはり洗いましょう」
「あ、洗わないからな・・・!」
じりじりと後ずさる山姥切様・・・を見て鶴丸様が楽しそうな顔をする。
「あ、」
「はい、捕まえた」
後ろに堀川様が居ますよ、と言うよりも早く堀川様が山姥切様の布を剥ぐ。
「役人さん、ありがとうございます。これでようやく兄弟の布が洗えます」
「いえいえ、お気になさらず・・・って、私がやりますので堀川様は・・・」
けれど堀川様は首を横に振る。
「ううん、僕がやりたいんだ。ダメかな?」
そう言われてしまえばNoとは言えない。
「いえ。では何か手が必要であればお呼び下さい」
その場に残されたのは団子状に丸まってしまった山姥切様とひいひいと笑う鶴丸さまだ。
「山姥切様!とりあえず上に上がりましょう!布の代わりの物でも探しましょう?ね?」
「お、俺が写しだからか・・・」
「関係ないです!」
こうして話をしていると、ほんのちょっとだけさみしくなる。
私も審神者になれたなら、こんな風なやり取りをずっとしていけたんだろうなって。
「・・・鶴丸様?」
笑いから復活した鶴丸様が私の頭を撫でる。
「残念だなぁ、君が主だったらどんなに楽しいだろうか」
ぎゅうっと手を握る。
彼らはようやく前向きになれたのに、このまま刀解しか道はないのだろうか。
やっと色を取り戻した庭を見てふとそう思う。
「やっぱり甘いよねえ、君。・・・考えの事だよ?」
「んじゃまあ面談でも始めましょうかねー」
いつの間にやらやってきた先輩は、審神者らしき少年を連れて来ていた。
先輩と少年がこの本丸の刀剣男士様達と面談をしている間、青江様にどうしてこうなったのかを訪ねる。
先輩には縁や感情を見る能力があって、ここの刀剣男士様が人間への憎悪を無くしたとの事なので事故物件ならぬ事故審神者を充ててみようかという話になったらしい、先輩の独断で。
この人どこら辺まで権力伸ばしてるんだろう、怖い。多分勝手にやってることなので後で始末書書くんだろうなぁ・・・。でもその前にヅラ部長のヅラを奪い取りそう。
「あの審神者さんはどういった経緯でここに?」
「手入れや刀装作りは上手いんだけどね、顕現が出来ないんだ」
「致命的ですね」
刀剣男士の顕現が出来ないのは私以上に審神者になれないと思う。
けれどここはある程度刀剣男士様もそろっていて練度もある。審神者さんと刀剣男士様が合意すれば審神者さんがここの本丸の主になれる。
出来ればそうなったらいいな、と思って私は山姥切様にかけてあげるための布を探しに歩いた。
とりあえずのお試し期間も終え(ちなみに本当に勝手に連れてきたらしく始末書の山をもらっていたが「質の良い紙で焼いた芋って美味しいよね」って焼き芋を食べ終えた後で言われた為色々と手遅れでした)、審神者くんは本格的にここの本丸を引き継ぐことになった。
刀剣男士様方も彼を認めてくれた為私としてはほっとしている。
「それではこれより主従契約を移します。何か異を唱える方はいらっしゃいますか?」
大広間に集まり先輩が呼んだ黒こんのすけと審神者くんに与えられるこんのすけで契約譲渡を行うことになる。
一人、手が上がる。
「山伏様・・・?」
すうっと心が冷える。
山姥切様は山伏様は明るくなったと言っていた、堀川様もだ。
けれど刀解を希望するのであれば、私がやらなくてはならない。
「山伏国広様、どうぞ」
先輩の言葉と同時に山伏様は立ち上がる。ああ、こんな時でもこの人は美しい神様だ。
「拙僧、主は自ら選びたいのだが、刀として分不相応であろうか」
「やっぱり山伏さんはそう言うと思いました」
審神者くんはそう言って笑うと私の背を押す。
「はい・・・?」
「役人殿。約束を違えることなく拙僧らに尽くしてくれた事。兄弟や仲間を救ってくださったこと、感謝する。どうか拙僧を役人殿の刀にしていただきたい」
へぇあ!?と変な声が漏れる。
「え、え・・・ええ!?あの、え、わた、私ですか!?」
「うむ。自ら主を選べるというのであれば、拙僧はお主が良い」
え、なにこれ、ドッキリ!?
盛大なドッキリ!?とか思ってきょろきょろしていると先輩が「とっとと決めろ」っていう顔をしていた。
「あ、あの!私は!審神者じゃないです!審神者になれなかったんです!だから山伏様を戦わせてあげる事も出来ないし、刀剣男士として正しいあり方をさせられないと思います。それでも、それでも私の刀になってくれるんですか!?」
「うむ。お主の方こそ構わないのか?拙僧は主殺しの刀。それでも側に置こうと?」
ああ、そう言えばそうだった。思わず吹き出してしまう。
「私は、山伏様がとても素敵な神様だって知っています。そんな山伏様が私に刀を向ける時は、きっと私が人としての道を踏み外した時でしょう。どうか、私の刀として力をお貸しください」
そう答えた瞬間堀川様が良かったね!兄弟!と満面の笑みを浮かべ、山姥切様も布の下で笑っていました。
無事に審神者くんへの譲渡も終わり、この本丸の担当になったところで
「よし、これで全員の思う所に収まったな」
という先輩の声が聞こえてきて震えました。
え、全部先輩の手のひらの上ですか・・・こわ・・・。
改めて私には山伏国広様という素敵な神様が側に付いていてくれることになりました。
きっとこの方が側に居れば、私は人としての道を踏み外さずに済む。そう思っています。