縁を切ったりする女と霊剣
「そういえば三組で一緒に仕事するのって初めてですね」
天菜さんと初雪さんにそう言えば「そうですねぇ」という返事が返ってくる。
二人とも元審神者だが二人とも見習いに乗っ取られて審神者を辞めている。ついでに言えば天菜さんの方は立て直したブラック本丸の刀剣に裏切られるという更に悲惨な状況であったらしい。
それでもって更に天菜さんを追いつめる状況。
現在地:元天菜さんの本丸
である。
おめでとう!見事ブラックです!
今回は本当なら私の出番はなかったのだがここの刀剣から天菜さんに伸びる縁が酷過ぎる為叩き切る為にやってきたのだ。
ちなみに切るのは黒刀剣達にガチギレしている堀川氏(レベルカンスト)である。
何でも先日ボスの甥っ子さんの所に居る山姥切国広が体術を使ったのを見て和泉守と共に甥っ子さんに修行に入ったくらいに天菜さんガチ勢である。
兼さんの相棒という君のアイデンティティはどうした、と問えばそれも大事だけれども裏切った分際でまだ縁を伸ばそうとする奴らの根性が気に食わないという感じの答えが返ってきた。
私はそんな堀川氏がとても気に入っている。もちろんLike的な意味でだ。だって見てて面白いし。
「僕も結構邪道でね!」なんて言いながら投げ飛ばすんですよ、闇落ちした太郎太刀を。
あの時は思わず拍手してしまった。
そういう訳で容赦なく土足で上がりこむ。
「そう言えば同田貫さんは打刀に変更になってしまいましたが気持ち的にどうなんですか?」
うわ、埃まみれという愚痴を言いながら初雪さんが同田貫に尋ねる。
「あ?別に戦えりゃ関係ねえよ。夜目もきく、室内でも戦える。こんなに良いことはねえな」
「うん、知ってました」
げんきだしてください、と今剣君が初雪さんの背を叩く。ここのトリオも仲良しである。
「とりあえず。彼らとの交渉は主に僕がやります。天菜さんは急ぎ浄化を、雪澪さんは天菜さんの縁切りをお願いします。堀川さんといまつる君は二人の護衛を、同田貫さん、青江さん、和泉守さんは僕と一緒に彼らの交渉を・・・そして無駄だった場合には戦線崩壊まで追い込んでください。逃がすつもりはありませんが天菜さんたちの方へ向かうようでしたらいまつる君、彼らに容赦は必要ありません」
大広間が近づくにつれ緊張が走る。
交渉決裂の場合は初雪さんは大広間で彼らの足止めをして、その間に私と天菜さんは大広間から一番遠い場所・・・離れに入り込みそこで浄化作業と縁切りをする。
「多分無意味なので結界準備しておきます」
「くろすけのセーフティモード起動しておきます。使わないのが一番なんですけどねぇ・・・」
初雪さんはため息を吐きながらくろのすけを呼んでセーフティモードを起動する。
無表情のまま結界を張る準備を始める天菜さん。私の「目」から見てもここの刀剣達は救いようがもうどこにもない。
自分たちの意志で別の女を選んでおきながらその女に裏切られたら前の主を求める。
「救いようがないクズどもだ」
ポツリ呟いた言葉は青江だけが拾ったようで彼は軽く肩を竦める。
「こんにちは、我々は政府職員です」
初雪が続けようとした言葉は主!という叫び声で途切れることになる。
「いいえ、ここに貴方方の主は居ません。前任は審神者としての地位を剥奪され、二度とこの場に戻ることは叶いません」
「違う!そこにいる!主、主・・・!何で嘘を吐くんだよ!主、今度こそ俺頑張るから、だから俺の事捨てないで、ねえ、主主主主主あるじあるじあるじあるじあるじ」
壊れたように主、と繰り返すのは加州清光だ。堀川氏の目からハイライトが消えた。和泉守が小さく悲鳴あげたのが聞こえたぞ、おい。気持ちは分かるけど。今の堀川氏は付喪神っていうか刀に宿った邪神感が半端ない。
初雪さんが片手で私たちに逃げるように指示をする。
「いまつる君は雪澪さんを、堀川さんは天菜さんを抱えて直ぐに離れに走ってください。ここは僕達で食い止めます。
水の入った水筒を構えながら初雪さんが小声で言う。
私と天菜さんはゆっくりと頷く。
初雪さんが指を三本立てる。
一本減って二本、一本減って一本。
人差し指が折りたたまれた瞬間体を風が包む。
今剣君は短刀だがこれでも刀剣男士だとばかりに私を抱えてびゅんびゅん走る。堀川氏も愛の力って奴だろう。速い。
背後から加州清光の主!と言う声と金属音。どす黒く染まってしまった赤い愛情を示す縁が伸びている。
「ばっかみたい」
最初に確認していた手筈通り離れに立てこもりすぐさま結界を張る。
天菜さんはそのまま浄化のために霊力放出を開始する。
私は天菜さんに伸びている赤黒い縁の糸を掴む。
「これがせつれいさんがいう えにし ですか?」
「はい。これが天菜さんに伸びているという事は・・・」
「彼らは主さんを諦めていないという事ですね」
堀川氏怖い。
「今剣さん、貴方にこんなことを頼むのは酷かと思いますが、私と堀川さんは今からこの縁を切る作業に入ります。守りをお願いしますね」
「まかせてください!ぼくはまもりがたなですよ!あるじさまからおふたりをきちんとまもるようにたのまれました!」
実は肉体派らしいぞこのショタ。
向こうでの戦いはどうなっているのか。気絶でもしたのか弱った縁の糸を堀川氏が切りとる。
地道にその作業の繰り返し。一気に切れば切る程天菜さんへの負担が大きくなってしまう。
それならば向こうが意識を失っている間に一本ずつ、でも確実に切りとる必要がある。
「刀解、かな」
「そうしてください。ここに残っているのはもう付喪神ではなくただの祟り神です。もう戻ることは出来ません」
「じゃあ折っちゃいましょう。地獄から救い出してくれた人を軽々しく裏切るような兵士は戦争には不要ですから」
きっぱりとそう言い切ると堀川氏は目を丸くして私を見る。
「雪澪さんってシビアだよね」
「私は性格クズで審神者になれなかったクチですが、そんな二心を抱くような部下ならさくっと殺します。っていうか世が世ならさくっと殺されてますよ」
あ、これ切ってください。そう続ける。
「雪澪様は厳しくてらっしゃる」
「黙れくろのすけ。仕事しろ」
私の黒こんのすけが分かってますよ!とボスに通信を始める。
そうして刀剣破壊の命令が下される。
本来なら彼らは本霊に還るべきだ。けれど彼らは本霊には還れない程に穢れてしまった。
最初の審神者が悪かったのか、天菜さんの対応がどこかで間違ったのか、刀剣男士が二心を抱いたのがいけなかったのか。
原因は分からない。もう分かることはない。
「これが最後の一本。他の縁は消えちゃったから多分向こうで破壊したんだと思うよ」
最後の一本は妙に太い。これが加州清光のものだというのは容易に想像できる。
切るよ。
堀川氏が硬い声色でそう言う。
彼らは元々仲間だった。けれども道を違え、そして生死すらも違えてしまった。
ぶつりと糸が切れる。縁の糸を手放した瞬間それは猛スピードで元あるべき持ち主の方へ還っていく。
遠くから、悲鳴が聞こえた気がした。
その後天菜さんの護衛を初雪さんに任せ青江と共に瘴気浄化の仕事に戻る。
一応縁切りじゃなくてこっちが本職だし。
「破壊したんだね」
「もうあそこまで行ったら救いようがなかったよ」
そう、と言葉少なに返して瘴気を消していく。
「君は彼らを救えると思っていた?」
「いや。【私なら】救わない。良くて刀解処分。戦で一番要らないのは裏切る可能性がある部下だろうし」
実際彼らは天菜さんを裏切っている。
確かに彼らはブラック本丸の刀剣として初代審神者には虐げられていた。
けれどそれを救ったのは天菜さんだった。天菜さんも顕現の能力が無いなりに少しずつ増やしていた。
・・・天菜さんが来たときにはすでに彼らの心は歪んでしまっていたのかもしれない、それこそ取り返しがつかないレベルでだ。
だから天菜さんより豊潤な霊力を持った見習いに心奪われ天菜さんを裏切った。
その代償はこれだ。
「自業自得だよ」
思念のこびり付いた欠けた刀の念をそれこそ根こそぎ切りとる。
「ふふ、だから僕は君が好きなんだよね」
「あ、そう」
青江の言葉におざなりに返しながら、今日の晩御飯は二人とその刀剣を誘ってみようかと考えた。
***
「お前のせいで俺は死んだんだ」
恨みがましい声で青年は娘に手を伸ばすが、その手が娘に触れることはない。
娘が娘である限り、青年は娘に害をなせない。
「彼女のせい?どう考えても自業自得じゃないかな?」
青年の声に男が返した。
血の涙を流す青年が男を睨む。
「違う、コイツのせいだ。コイツが居たから俺は主の元に戻れなかったんだ」
男はそこでようやっと娘の言った言葉の意味を理解する。
青年はもう元には戻れない。
自分がしたことに目をつむり、コイツが悪いのだと言い続ける限り彼の罪は永遠に晴れることはない。
「それこそ違うよ。最初に【主】を裏切ったのは君だ。君たちはただの謀反人。それだけだ」
男はスラリと本体である刀を抜く。
「知ってるよね、僕の名前の由来」
にっかりと笑った男に青年は悲鳴を上げた。
けれどその声は誰にも聞こえない。
かつては自分と同じ刀剣男士【だった】モノの怨念を切り捨てる。
「君たちもいい加減彼女から離れなよ」
幽霊の血でべったりそまった部屋を見ながら、男は言葉を吐き捨て刀を振るった。