雪男の愉快な職場紹介


どうもこんにちは。しがない政府職員です。
コード名は初雪です。
生まれが色々複雑だったのですがのんびりほのぼの生活していたところ母親に俵担ぎされ政府にぶん投げられました。
どうやら母はここの偉い人と仲良し()だそうで母と姉が雪山に修行をしに行っている間「お前ここで働いて社会性身につけろよ」と頼まれたそうです。やめてください母上様、死んでしまいます。
え?何故母と姉が雪山に修行しに行ったかって?
だって二人は雪女ですから。

あ、僕達姉弟はハーフなんですけれどね。父は小さいころに亡くなりました。
何と言うか、雪女という妖怪は人里に近い妖怪なんです。だから意外といるんですよ、半人半妖って。
僕もその一人です。しかし雪女という妖怪の能力としてはさして高くなくせいぜい周囲の水分を凍らせたり水を凍らせたりというレベルです。人間界では隠し通せます。
だから僕は人間界で人間として生きていくつもりでした。しかしそうは問屋が・・・いえ、母親が許しません。
今歴史を変えようと目論む歴史修正主義者が各地各時代でテロ行為を行っています。
「お前それ止めてきな」
母はとてもいい笑顔でした。僕の母はとても強いです。流石に女手一つで双子を育て上げただけあります。
そんなこんなで僕は審神者になったのですが・・・まあごたごたがありまして辞めざるを得なくなりました。
刀剣男士怖い。
彼らは付喪神と呼ばれていますが妖怪寄りでもあります。
僕も妖怪の血を継いでいますが人間界で生活していたので考えはとても人間的です。
神様怖い。
そんな僕が流されてきたのはブラック本丸対策部でした。
何でも経歴クリーンな方々が神様の人権、もとい刃権を勝ち取る為に立ち上げた場所だとか。
きっと僕が前居た本丸もブラックになっていることでしょう。見習い君はとても狡猾です。
僕の仕事は基本的に偵察と陽動です。
楽しいですよ。何の変哲もない人間が!殺してやる!って言っていた神様の足元に水をぶっかけて凍らせるの。
残念ですが僕は半分妖怪なんです。
あるブラックを摘発した時のことです。そこの審神者が死なばもろともと本丸に火を放ちました。
その時助けたのが・・・

「あるじさま!おきるのがおそいですよ!」
「ぐえっ」

このいまつる君こと今剣君です。
炎に包まれる本丸で、いまつる君は岩融さんと逃げていました。しかし、崩れた柱で二人はバラけてしまい・・・僕が助けることが出来たのはいまつる君だけでした。
消火活動が終わって、僕はいまつる君に泣きながら罵られ殴られ、刺されました。
あの時、いまつる君を助けていたら岩融さんは助からなかった。岩融さんを助けていたらいまつる君は助けられなかった。
あんなにも過去を変えてしまいたいと思ったのは初めてです。
その後彼の怒りを受け止めながら、残った岩融さんの刃を供養しました。
せめて彼が本霊に戻れていますように。今もそう願うしかありません。
そんなこんなで僕にもまた刀剣男士がくっ付いて歩くようになってしまいました。
正直見習い君の乗っ取りのせいで刀剣男士怖い状態です。しかもボスは僕にもう一振刀を渡しました。

同田貫正国さんです。嬉しくありません。

彼自身は戦好きな面が大きいですが聡い方です。
ですが僕の仕事柄彼の好きな戦には出してあげられないでしょう。
しかしそこはボス。笑顔で封殺です。
「定期的に部署の刀剣達で一部隊作って出陣させているだろう?彼は定期出陣で常に出てもらうという事で了承してもらったよ」
神様は死にました。
けれど同田貫さんといまつる君のおかげで生活が変わったというのも事実です。
壊滅的に苦手だった料理も部署の先輩に教わりつつ上達しました。先日二人から美味しいという言葉をもらったのでとても嬉しかったです。
その他一般的な家事スキルも身に付きました。これでどこに嫁いでも立派に主婦としてやっていけます。そろそろ性別に自信がなくなってきましたが立派な男です。

「いまつる君。今日は僕たちは休みですよ。君ももうちょっとゆっくりしていていいんですよ。普段は働きづめなんですから」
「そんなことないですよ。ぼくしってるんですからね、あるじさまがぼくとどうたぬきのしごとをへらしていること」
ふふん、と得意げに笑う彼は三条一派の短刀です。千歳超えてるとか怖いですね。
「だからつかれてません!」
「そうですか、それはよかったです。同田貫さんは・・・ああ、今日は出陣の日ですね」
僕も今日は非番ですのでいまつる君が飛び乗ってきた鳩尾を摩りながら起き上がります。
「では朝食にしましょう。何か食べたいものはありますか?」
「ぴざとーすとがいいです!」

うちの刀剣男士は立派に俗世に染まりました・・・。母上が見たらどう思うでしょうか。もしかしたら僕は殺されるかもしれません。

机を片づけてくださいね、といまつる君に言って朝食の準備をします。
二人分のピザトーストを作ってコップに牛乳を注ぐ。いまつる君と向い合せに座って両手を合わせます。

「「いただきます」」

これが僕たちの日常です。
話は変わりますが政府も悪いところだけではないんです。
善悪だけで測れないように、悪いことを考えて実行するクズも居れば、ボスのように身を削ってでも審神者と刀剣男士の人権を守ろうとする人たちも居ます。
ただ薄い色合いの中に濃い色合いがあればそちらが目立つように、政府の黒い面ばかりが取沙汰されていきます。
僕らが捕縛するのは真っ黒も真っ黒な奴です。アウトゾーンは綺麗に掃除しちゃいましょうねー。
グレーの所は監査が入ります。ちなみに監査の入った本丸のこんのすけは特殊な呪がかけられてアウトになった瞬間に審神者がもだえ苦しむことになります。凄いですよね、呪の力。
「おはようございます!!」
「はよー」
「おはようございます」
朝、出勤すればいまつる君は元気に飛び跳ね同田貫さんはいつもの気の抜けた挨拶。
僕達三人のいつも通りの朝です。
「あ、初雪君来て早々悪いけど直ぐ出てくれる?大分酷くなってるみたいでね」
前田藤四郎と平野藤四郎を連れた上司の言葉に頷いて二人に声をかける。
「いつもみたいに審神者を捕縛してくれればいいからね。刀剣たちは・・・出来れば穏便に済ませたいけど、抵抗するようなら戦線離脱までならオッケーだよ」
「お、そりゃあいいな」
「同田貫さんオンステージじゃないですか」
ぼくもがんばりますよーといまつる君が大はしゃぎする。
いつもの手筈通り通常ゲートとは違う場所に小さなゲートを繋ぎ侵入する。同田貫さんを踏み台にいまつる君は屋根の上に軽々飛び上がる。
「いまつる君は偵察をお願いします。審神者部屋が見つかり次第すぐに式を飛ばしてください」
インカムに向かってそう言えば向こう側からはわかりました!という明るい声が響いてくる。
こういう雲が厚くて寒い場所にはいまつる君の元気の良さはとても救われるものがありますね。
空間の異変を感じたのか数名の刀剣男士達が裏庭にやってくる。
一度同田貫さんを下がらせ挨拶をする。
「初めましてみなさん。僕は政府の本丸対策部です。・・・こちらの審神者様を捕縛させていただきます。出来る限り穏便に済ませるようにという指示です。武器を置いてください。審神者を捕縛しだい皆さんの手入れを・・・」
しかしそういって手入れを受けてくれる人は少ないです。悲しいですね。
同田貫さんは凶悪な笑みを浮かべて喜々として斬りこんでいく。
「戦線離脱迄ですからねー」
同田貫さんの背中に向かって声をかけてから大きめの木を一気に登り屋根の上に跳ぶ。
丁度いまつる君からも連絡は入った。
「どうしようかなぁ、水は持ってきてるし凍らせておこうか」
いまつる君と合流し無言で頷きあう。

「「おじゃまします!!!」」

障子を蹴破ってダイナミック入室。審神者が暴れそうになったところをいまつる君が顔面にグーパンチを入れる。
このこつよい(確信
僕は顔面に拳を食らってよろめいた審神者に水をかけて凍らせる。それとほぼ同時に実働部隊がゲートから入ってきた。
「やりましたね、あるじさま!」
「いまつる君が位置把握をきちんとしてくれたからですよ」
そう言って褒めると彼は本当に嬉しそうに笑う。
「それよりどうやってどうたぬきをとめましょうか」
「放置でいいんじゃないでしょうか」
お昼はちょっと豪華にしましょうか、と言えばいまつる君は飛び跳ねながら喜んでくれます。
これもまた僕たちの日常です。


「初雪さんってメンタル弱いですよね」
最近この部署に転向してきたチビ審神者さん事天菜さんが唐突に口を開く。
彼女は元審神者だったのですが僕と同じように見習いに本丸を乗っ取られてしまい、居場所を彷徨った所ここに来たという経緯があります。
「そんなことないですよ。堀川さん、貴方の主さんちょっと口が悪いですよ」
「でもよく今剣の無邪気な物言いにヘコんでますよね」
天は僕を見捨てた!
「そんなことないですよ!あるじさまはただあねうえがこわいだけです!」
「後母親にもビビってるだけだ」
「やめてください!そんなことありませんから!」
確かにあの二人は怖いですが!
周囲の目が生暖かい物になる。いかんせんこの場に居る人は天菜さん以外は僕がここに流れ着いた経緯を知っているからだ。
僕だって結構落ち込みますよ・・・。
「おいおい、初雪がヘコんだじゃねえか」
「あいかわらずおちこむときらきらしますね」
僕の刀達は僕のメンタルを削るのが大好きみたいです。
あ、そういえば今日新しい人がここに来るそうですね。・・・なんかもうどうでもよくなってきたな。
にっかり青江を連れたメガネの人がこっちを見て・・・何だか愉快そうに笑っていた。
そんな愉快そうに笑う当人には愉快になれない物がいっぱいくっ付いていたけれど。みんな固まっちゃいました。
「何だかまたにぎやかになりそうですね」
「そうですね・・・」
天菜さんにそう返し、僕はコーヒーを一口飲みました。

辛い現場が多い部署だから、少しくらい明るく振る舞ってもいいでしょう?
これは一職員のちょっとした願いです。