無感情女が縁を切れない
「うーん、何ていうか濃いね」
「お前が言うな」
ずり落ちるメガネを直しながらそう言えば厄介な同居人は楽しそうな笑い声を上げる。
ブラック本丸対策部。
政府の中でも特殊な部署に入ると思う。
ボスと呼ばれているのはスーツが似合うロマンスグレーのおじさま。側には蛍丸が控えている。ちなみに懐刀として愛染国俊を刀状態で常に内ポケットに入れているとか、なにそれこわい。
蛍丸にはボス、愛染にはじーちゃんと呼ばれていてとても仲良しな三人組である。二人は元ブラック出身である。
それから何か周囲がキラキラしている20代半ばくらいのお兄ちゃん。相棒は今剣と同田貫正国。
話を聞くと雪女と人間の間の子らしく、双子の姉は現在立派な雪女になるべく母と共に雪山で修行しているらしい。本人はちょっと周囲を凍らせる程度の能力しかないし、隠していけば人間として生活できるからと思っていたのに母親に政府にぶん投げられてこの部署で仕事をしているとかなんとか。苦労人っぽいが話してみると面白い兄ちゃんである。キラキラしているのは落ち込むと周囲の水分を無意識に凍らせてしまうからだそうだ。
ちなみに相棒の二人も元ブラック出身である。
何だここ。ここの刀剣は基本的にブラック産なのか、と聞いてみれば7割くらいは、との返答。
後は私よりも少し前に入ったという身長が小さい女の子はブラック立て直しの生贄にされてて立て直したのに裏切られたという物凄い経歴の持ち主だ。彼女の相棒は堀川国広と和泉守兼定。二人とも彼女が顕現させたとか。多分この堀川はバグってる。兼さん!という声より主さん!という声の方が多い。むしろ相棒の兼定放置してる。堀川から伸びている縁の太さと美しさは目を見張るものがある。麗しき主従愛。多分それ超えてるけど。主従愛はチビさんと兼定の方だと思う。
他にも鎮圧専門の方々や書類仕事する方々などでこの部署は構成されている。
「いやあ、無理を言って申し訳ないね。雪澪さんでよかったかな?」
「いえ、気になさらないでください」
彼に伸びている縁はどれも親愛に満ちたとても麗しいものだ。彼もまた部下を信頼しているのが分かるし、彼の愛情を向けられている家族も幸せだろう。それだからか対策部の上司であると言うのに負の感情が見えない。・・・というよりは親愛の縁が全て消し去っている。なにこれすごい。
「基本的に制圧は君の仕事ではない。普段は浄化部の一員として仕事をし、不穏な縁があれば私たちに知らせてほしい」
「は・・・」
え?それだけでいいの?
・・・っていうのが多分顔に出ていたんだと思う。ボスは苦笑を浮かべる。
「元々部署の兼任は反対なんだ。浄化部はとても忙しい場所だというのにこちらの仕事を押し付けるのも申し訳なくてね」
「いえ、そんなことはないですけど・・・縁切りはしなくてもいいんですか?」
そう聞けば必要があれば、という返答が返ってくる。
「分かりました。それではその任を受けさせていただきます」
「ありがとう、そう言ってもらえるととても助かるよ。・・・最近は彼らを物としてしか見ない審神者が増えているからね」
寂しそうに、そう笑う。
「ああ、そうだ。後にっかり青江さんに少し話を聞きたいのだけれども・・・」
「いいですよ。では失礼します」
同居人を残して席を外す。
何を話すのかは知らないがまあ私には関係ない。ある程度対策部の人と挨拶を終え・・・早速だが出番が来た。
何やら浄化部の人間が来るのを渋っているらしい。怪しすぎるだろ。経歴自体は綺麗だがきな臭いものだ。
強制訪問という形で相手方に連絡を入れ、私はゲート前に立つ。
「不審な点があればすぐに呼ぶように」
ボスはお茶目なおじさまだがこういう時はきりっとしているようだ。周囲の部下たちも緊張した面持ちである。
だってここが当たりくじなら向こうには人間を呪いたい神様がわんさかいるんだもんね。
しかし
「別に怖くもないしなぁ」
感情がイカれている私には興味がない事だ。
ゲートをくぐった瞬間、刀が私を襲う・・・が結界に弾かれて刀剣男士はたたらを踏んだ。
「同田貫正国様。刀を収めてください」
「はあ・・・?てめえらが来るっつーからアルジサマがご機嫌ななめじゃねえかよ」
真っ黒です!大当たりです!
「じゃあその真っ黒い主様はこちらで何とかするんで引いてください」
「引けるわけ・・・ねえだろ!」
はー、と盛大にため息を吐く。メガネを外して私は同田貫から伸びた縁をひっつかむ。
「晩飯食べたかったら仕事しろ同居人」
「はいはい、僕の主様」
青江が本体を使って糸を叩き切る。
ショックの軽減のために本当なら人体ギリギリで切らなければならない所を・・・目測30センチくらいか。ガツンと殴られたように同田貫が地面に伏す。
メガネを胸ポケットに入れれば見える見えるドス黒い縁。
「盛大にアウトー。よーしお姉さん頑張っちゃうぞー」
さしてそんなことは思っていない。
笑えはしても面白いとは感じない。
喜怒哀楽がすっぽりと抜け落ちているのでこういった場所での仕事には向いていると思う。
殺意?なにそれたべるとおいしいの?
後から初雪さんに言われた。
「あの時の雪澪さんすげえ笑ってて怖かった」
解せぬ。
「はい、働いた分の夕飯」
昨日の今日で2件ブラック摘発ですよ、やったねせっちゃんきゅうりょうふえるよ!
昨日は一度手入れや検査を行うからと青江はこの部屋に来ていなかったので本日初!来訪です。嬉しくない。
まあ人増えたおかげで脱レトルトカレーできたので良しとしよう。
「へえ、見かけによらず料理が上手なんだね」
「やかましい、テツト●の片割れ」
どうでもいいがこいつのジャージ見てるとあの芸人を思い出して仕方がない。
チキンカレー美味い。それだけで十分だ。
刀剣男士を護衛に連れる職員は専用の職員寮に行かなきゃならないので明日からはお引越し作業ですな。
「・・・何?」
「ふふ、なんでもないよ。新しい主は退屈しなさそうだなって思っただけさ」
***
「青江さん」
「彼女の後ろに居る物のことかい?」
青江がさらっと返せばボス、と呼ばれている壮年の男は困ったように笑った。
「ああ、そうだ。私も長年この仕事に就いているが、彼女の例は・・・初めてかな」
男は続けて「神職系ではない家系に霊力が高い子供が生まれると稀に何らかの欠陥を負っていることがある」と言うことを青江に告げる。
「見えないものは信じない、か。彼女のその信条こそが彼女を守る唯一にして最大の盾だ」
「石切丸も似たようなことを言っていたね」
見える人が見れば彼女の背には酷い物しか憑いていない。
彼女に関係があるものもあれば一切関係なく怨念というだけでくっ付いているものすらある。
「僕、幽霊切れるんだよね。あいつらも切れるのかなぁ」
「どうだろうか。一時しのぎにはなっても彼女の感情が欠損している以上はいたちごっこになるだけだと思う」
深夜、彼は起き出すと主の元へ向かう。
原型を留めていないそれらは主への呪詛を吐きだし続けているが彼女はぐっすりと眠っている。
「笑いなよ、にっかりと」
つんざくような悲鳴を上げて、それらは真っ二つになった。