無口な彼女の優しい世界



この本丸の主が軽んじられている事に、新人の同田貫正国が気付いたのはいつだったか。
彼ら刀剣男士たちは審神者と呼ばれる主の霊力によって顕現しているため、基本的には審神者への無体を働くことができない。
しかしここの主はどうにも霊力が弱いのか、本人をしても「下の上、よくて中の下くらいですから」と言って困ったように笑うのだ。
その霊力の弱さは刀装づくりや鍛刀にも表れているのか、この本丸は他と比べて太刀や大太刀と言った種類の刀剣が少ない。
初期のころからここに居たという御手杵に主の扱いを聞けば、彼が鍛刀でやってきたときにはすでにその扱いだったようだ。

彼らの主は、無口だった。
しかしそれは刀剣たちと喋りたくない、などと言う事柄からなどではなく昔の出来事で会話をすることができなくなってしまったのだと聞いていた。
同田貫が何があったのかと聞けば主は「火事で家族全員を失った。目の前で兄が燃える柱に押しつぶされたのを見てしまった」のだといつもの困ったような笑みを浮かべて返した。
聞いてはいけないことだったようだが、主はいつもの笑みで気にしないで、と伝えるだけだ。
17歳の年端もいかぬ娘が血なまぐさい場所に駆られて、戦の指示をするというのはどういう気分なのだろうか。
そこまで考えて同田貫は首を横に振った。
彼は、武器だ。
人を殺すための道具。使えれば、使われればそれでいい。主がどんな人物であろうと、自分の存在意義を果たせればそれでいい。

「何で撤退を指示したんだよ!!」

玄関の方から怒鳴り声が聞こえる。どうやら出陣していた第一部隊が戻ってきたようだ。
・・・大分怒りを持ったまま。
『和泉守さんの刀装が壊れ、大分傷を負ってしまいましたので・・・』
彼女はパソコンの音声合成ソフトを使用して刀剣たちと会話をしているのだが、機械音声にも関わらず、どこか震えが混じっているように聞こえたのは気のせいだろうか。
「はあ?そんなのお前がきちんと刀装作ればいいだけの話だろ!?」
相手の大将を目前に引き返してきたせいか和泉守は大分お怒りだ。
審神者は頭を下げながら『手入れをしますので部屋へ』と伝える。
ちっという舌打ちが響く。
やはり審神者はいつもの困ったような笑みを浮かべ手入れ部屋へと向かっていく。
どんよりとした空気が玄関に漂う。
「お前、もう少し何とかできねえのかよ」
流石に今のは酷いのではないか。そう思って同田貫が和泉守に声をかけるが彼は憎々しげな視線を向けるばかりだ。
「霊力がねえあいつが悪いんだろ。刀装も、鍛刀も、指示もまともにできねえ!くそっ、何だって俺はこんなところに呼ばれちまったんだよ」
悪態をついて彼は手入れ部屋へ向かっていく。
空気はさらに重くなった。
「・・・アイツ、いつからああなんだ?」
第一部隊の薬研に尋ねる。
「和泉の旦那が鍛刀されたばかりのころはよかったんだけどな。演練で・・・相手の審神者の霊力が大将よりも数倍高くてな」
ようは、羨望なのだと。
審神者の霊力が彼らの顕現に直結するこの関係上、霊力というものは非常に意味を持つものとなる。
高ければ高いほどもちろんいいのだが、高すぎても神に気に入られてしまって人の世に戻ることができなくなる。
低すぎれば自らが呼び出した付喪神に殺される事すらある。
彼女はどちらかというと後者だ。
しかし主を殺せば自分たちも消えてしまう。彼らの鬱憤は言葉として吐き出されることになった。
そして、主はそれを甘んじて受け入れることにした。

「アンタはどうして言い返さないんだ?」
『何をですか?』
首をかしげながら審神者は近侍の御手杵に尋ねる。
彼は理不尽になじるようなことはしないし、審神者に悪い点があればきちんとそこを指摘してくれる。
幼いころに亡くした兄を思わせる彼は一緒に居ても居心地が悪くならない。
彼が近侍を降りたいと言わないのを良いことに審神者は彼を近侍に置くことが多かった。
「和泉守とか言いたい放題言ってるじゃん。アンタだってむかつくんじゃねえの?」
審神者は、やはりいつもの困ったような笑みを浮かべた。
その癖になった笑顔が彼女の『辛いことを我慢している時の表情』だということは、きっと御手杵以外は知らないのだろう。
『和泉守さんが言う通り、私の霊力が低いのが 原因ですから。怒られても仕方ありません』
じゃあなんでアンタは審神者になんてなったんだ。
思わずそんな言葉が口をついて出てくる。
『なりたかったわけではないのですが、ほとんど身売りみたいなもので、ですね』
ちょこん、と首をかしげる仕草は幼子のようだ。
『誰も私のことなんて必要としませんから。施設でもお金がかかるような大きい子供は外に出したかったんだと思います』
要は、施設の職員が政府に彼女を売ったのだと。
『不必要な私なんかよりお金の方が大事ですからね』
そこで御手杵は主の事を聞いてきた同田貫を思い出す。
彼らは、彼らの時代では無用だとされてきた。無用の、長物なのだと。
ふとそれが目の前の主に重なって、御手杵は彼女の髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
訳が分からない、と言った顔で御手杵を見つめる主は今は年相応だった。
「俺は・・・別にアンタのこと必要ないとか思ってないからさ。今は、アンタが俺の主だしな」
『ありがとうございます、御手杵さん』

初めて、主が嬉しそうに笑うのを見た。


久しぶりに近侍が変わった。
『よろしくお願いします、同田貫さん』
「おう。・・・で、何で俺なんだ?」
そう尋ねられ審神者は練度の兼ね合いもあって近侍を変えることにしたのだと言う。
『何か至らない点があれば何でも言ってください』
そう言って微笑む審神者の後ろには高い本棚がある。
そこには兵法書や他の審神者からもらったであろう文がぎっしりと詰まっている。
目の下にくまが見えるのは、これらを勉強しているからなのだろうか。
「そりゃこっちのセリフだ。こうやって人間の体を得てそんな経ってねえからな」
そう返すと審神者は眉をへの字に曲げて笑う。声を出すことができたならきっと、綺麗な笑い声も聞けたのだろう。

なんだ、こんな風に笑うことも出来るのか。

いつも困ったような顔で笑うので新鮮で、思わず彼女の顔を凝視してしまう。
『顔に何かついてますか?』
「いや、なんでもねえよ」
審神者は自分を不必要なものだと思っていると御手杵からは聞いていたが、これだけを見ているとそうは思えない。
『刀装を作りたいのでいいですか?』
「おう、任せておけ」
何故か自然とこの主に対しては態度が柔らかくなるのは、御手杵と同じ理由だからかもしれない。

活躍すべき時代に評価が低かった同田貫と、出番がなかった御手杵。

武具であったころ感じていたものを、彼女は今も感じ続け、そしてその身を自分で縛り続けている。
刀装を作る祭壇の前で、審神者は呆けていた。
手のひらで輝く金色の刀装は間違いなく特上と呼ばれる最高ランクのものだ。
ぱぁっと顔を輝かせた審神者が同田貫に抱き着く。
「うおっ・・・!」
突然の出来事だが軽い女一人受け止められないわけでもない。
そこで審神者はハッとした顔になり慌てて同田貫から離れてパソコンを手に取る。
『ごめんなさい!嬉しくってつい御手杵さんにするようにしていまいました!』
ぶんぶんと音がしそうなほどに頭を下げる審神者を何とか宥める。
「・・・っつーか御手杵には抱き着いてるのか」
『上が出来たときなんかは私も御手杵さんもついついはしゃいでしまって』
あの時、やったな!と言って一緒に喜んでくれたのがとても嬉しかったと審神者は笑う。
『ありがとうございます!同田貫さん!』
年相応にはしゃぐ彼女に同田貫はぶっきらぼうに俺は何もしてないと返す。
『違います。同田貫さんは、私なら出来るって信じてくれたからです!』
その言葉に胸に刺されたような痛みが走る。

この主は、古参の刀剣たちにも信じてもらえていないのか、と。

「お前の実力だろ」
『違います。同田貫さんのおかげです』
そう無邪気に笑う女は一体どんな扱いを受けてきたのかと不憫になる。
その後も特上と上の刀装を作った審神者と同田貫は第一部隊の面々に刀装を渡しに行く。
しかし浴びせられたのは「たまにはやるじゃないか」「奇跡もあるんだな」などと言う慈悲の欠片もない辛辣な言葉だ。
『特上でそろえることはできませんでしたが、上がたくさん作れました。今回の出陣は江戸になります』
それも困ったような顔で受け止めて出陣の指示を出す。
第一部隊を見送る審神者の背に同田貫が声をかける。

「言い返さねえのか?」

ゆっくりと審神者が振り返る。やはり困ったような笑みだった。
『御手杵さんもそういってくれましたが、悪いのは私ですからいいんです』
同田貫さんもごめんなさい、と審神者が頭を下げる。
「お前は・・・何に対して謝ってるんだ?」
何故目の前の女の笑顔を見ると刺されたような痛みが走るのか。
『私には力がないから、たくさん皆さんに迷惑をかけています。もっと力がある人が審神者だったらよかったんですけれど』
そうしたら同田貫さんにも迷惑かけなくてよかったのに、と審神者は続けた。」

―――

「何とかならねえのかな、アレ」
ある日の内番。畑仕事を任されていた御手杵は同じく畑仕事をしている同田貫に声をかける。
無用の長物だと称される二人は、これで戦バカなのもあって仲が良い。
「どうしようもねえだろ」
審神者がどんなに気を使おうと、どんなに頑張ろうと、和泉守を筆頭として彼女の事を認めていない。
最近はそのせいで一切鍛刀を行わず、戦場で刀を拾ってきても顕現させずに倉庫にしまいこんでいる始末だ。
完全に刀剣男士に対して不信感を抱いてしまっている。
そんな中審神者に対し理不尽を行わない御手杵と同田貫は信頼されているのか交互に近侍を任されている。
「あ、あんなところに」
御手杵が縁側に審神者の姿を見つけて体を伸ばす。身長が高い彼は畑仕事を続けていると腰に来る。
「おい・・・!」
ぐらり、と審神者の体が傾いた。
二人は慌てて審神者の元へ駆け寄り、御手杵がギリギリの所で滑り込み地面とのクッションを果たす。
スライディングをしたせいで服が擦り切れた気がするが仕方ない。
「主!おい!!主!」
ぐったりとして目を閉じた審神者の顔色は青を通り越して血の気がなく陶器のように白い。
元々色白な方ではあるがいつにもまして酷い。
「同田貫、こんのすけ探してきてくれ。俺はこのまま主を部屋に連れて行く」
胸が上下しているのを見て生きていることは分かる。御手杵はそのまま審神者を抱き上げると彼女の部屋へ走っていく。
審神者の部屋には特殊な結界が張られていて、部屋の主の許可かサポート式神こんのすけが認証しない限りは入ることができない。
同田貫は慌ててこんのすけをひっつかみ(悲鳴を上げていたのは無視した)、審神者の部屋へ向かう。
何とか二人で部屋へ入り、真っ白な顔色をした主を布団に寝かせる。
「あああ、だから言いましたのに・・・!」
ぴくりとも動かない少女を目の前にこんのすけが悲鳴にも似た声を上げる。
「どういうことだ?」
同田貫がこんのすけを睨む。小さな狐はびくっと体を震わせたが、視線に負けたのか小さく口を開く。
「主様は、特異体質をお持ちなのです。刀剣男士様を呼び出すには霊力が必要なのですが、主様はその際に不必要な霊力まで外に放出してしまいます。それは手入れや刀装を作る際にも放出しているのです。そして、放出された霊力の代わりに刀剣男士様達の神力を取り込んでいます」
こんのすけが言うには、近侍が審神者の能力に影響することは多いが、彼女はそれが顕著に現れてしまう体質なのだという。
「・・・・・・つまり、今までコイツが刀装を失敗したり並しか作れなかったのって」
「その時に近侍であった刀剣男士様が、主様を信頼していないから、だと思われます」
だからあの時、同田貫が近侍として刀装を作った時にあんなに喜んだのか。
同田貫は呆然と眠る主の顔を見る。
そして、審神者自身自分の特異体質を理解していたのだろう。だから、同田貫のおかげだと言ったのだ。
それから心から嬉しそうに笑う審神者の顔を思い出して、やはり戦で傷をつけられた時のような気分になってくる。
「がああああああ!今日はとりあえずこのまま休ませるぞ!御手杵!外で見張っとけ!俺はあいつらに伝えてくる!」
頭をぐしゃぐしゃとかき乱し同田貫が声を上げる。
「お前でいいのか?俺の方が練度高いけど」
御手杵の冗談めかした言葉に、うるせえ!と同田貫は返す。
そのままどかどかと縁側を歩いて行ってしまう。
「主が寝てるんだからもう少し静かに歩けっつの」
御手杵もボヤきながらこんのすけに審神者を看ていてくれるように頼み、部屋の外に出る。
本体を取りに行くつもりなのか彼も縁側を歩いて行ってしまう。
「・・・・・・」
「主様、気が付きましたか」
その音と声で目を覚ました審神者はこんのすけを見て、ゆっくりと頷く。
「ですから、和泉守兼定の手入れは後でしましょうと言ったではありませんか!」
審神者はパソコンを手繰り寄せゆっくりと文字を入力する。
『ダメです。それじゃあ、もっと信用を無くしてしまいます』
目の前の少女はどこまで自分を傷つければ気が済むのか。
「主様、私は最初に言ったはずです。貴女の特異能力は信頼の元成り立つのだと。この場所に居ては貴女のお体に障ります」
こんのすけの言葉を聞いて審神者は俯いていたが顔を上げると困ったような笑みを浮かべて顔を横に振る。
『それに、私が死んでも代わりの審神者が来るだけです。もしかしたらその方がここのみんなにとってはいいのかもしれないけれど』
日に日に目から光を失っていく審神者の姿にこんのすけも心を痛めていた。
しかし、彼女の霊力は刀剣男士たちを従わせることすらできず、彼もまたサポート式神の一体に過ぎない。
助言をすることはできても助け出すことはできない。
元々この少女は自分を卑下することが多かったが、ここに来てからその回数がさらに多くなった。
要らない、必要ない、そう言われ続けそれが当たり前だと思ってしまった彼女はそれを伝える方法すら無くしてしまったのだ。
『こんのすけ、私、あれを受け入れようと思います』
「・・・主様、それは」
『いいの。元々私には審神者としての能力なんてほとんどないから。新しい審神者候補が見つかったなら・・・その人に譲渡したほうがみんなも・・・きっと幸せになれるはず』
主様!とこんのすけは審神者の腕にしがみつくが、彼女はそのままメールを送信してしまう。

数日前から、届いていたメール。
彼女よりも能力のある審神者候補が見つかったため、その者に本丸を譲渡すること。
新しい本丸を与えるため、そこでもある程度刀剣男士たちが育つまで面倒を見ること。
場合によっては一人、又は二人まで新しい本丸に連れて行っていい。

審神者は迷っていたが、今回倒れたことで心に決めたようだ。
新しい本丸である程度人材育成をして、また別の審神者へ譲渡しろと。
戦闘能力を期待されていない以上はそうするしか道はないのだ。
「・・・分かりました。主様がそう決めたのであればこのこんのすけ、どこまでもお供いたしましょう」
サポート式神は一人に付き一体。このこんのすけは審神者に与えられた供である。
審神者は口の動きでありがとう、と言う。
「ところで誰を連れて行くおつもりですか?あっ!・・・まさかとは思いますがお一人で行かれるつもりではないですよね!?」
こんのすけの言葉に審神者は困ったような顔をする。
「あああ、貴女と言う方は!もっと自分を大事になさってください!」
ああ、もうとこんのすけはため息を吐く。
「・・・本丸の皆には私から伝えておきます。主様は少しお休みになってください」
コクリとひとつ頷いて審神者は布団に入ると、疲れていたのか直ぐに眠りに入る。
障子の外では御手杵がもう戻ってきていて警護のために座り込んでいる。
布団の中眠りにつく少女は、どうしてこうなってしまったのか。
どうしてこんな道しか選べなかったのか。
こんのすけはそれでもこの道を選ぶしかなかった少女を不憫に思う。

それから数刻してからのことだった。
遠くから聞こえてきた怒鳴り声に御手杵はハッと大広間の方を見る。
「同田貫・・・に和泉守か?」
何やら険悪な雰囲気だ。彼はちらりと真後ろにある部屋を見たがただ事でない空気に大広間へ向かう。
「お、おい!何してんだよ!」
同田貫と和泉守が互いの胸元を掴んで睨みあっていた。
「お前、今何て言った」
御手杵が止めるより先に、同田貫が和泉守に噛みつく。
「要らないってなんだよ!」
その言葉にじわりと浸食をされた気がしたのはきっと自分だけじゃない。目の前で強面の顔をさらに険しくさせている男もそうだろう。
「お前もそう思ってるだろ!?あんな霊力も低くてまともに刀装も指示も出来ない審神者!あんなんでいいのかよ!!」
出番がなかったんだ。評価が低かったんだ。
胃の中の物がせりあがってくる感覚で気分が悪い。
同田貫が言い返そうとしたその時だった。

「やめ、て・・・・だ、さい」

小さくか細い声だったが、妙に響く不思議な声。
「あ・・・」
審神者が広間の入り口に立っていた。
和泉守が呆然と審神者を見つめていた。
きっと今の発言も聞かれていただろう。審神者がそう望めば、彼らは本体である刀を処分されてしまうこともある。
「ど、たぬきさ・・・んも、いずみ、のかみさん、もわるく、ない、です」
喉を押さえ、体を震わせながら、審神者が言葉を紡ぐ。
「わるい、の、ぜんぶ、わた、し、だから。ちから、たりない、の、わるい、から」
そこまで言うのが限界だったのかげほげほとむせながら座り込む。
顔色が悪いこんのすけが主様!と駆け寄り御手杵も審神者の横に膝をついて座り彼女の背を摩る。
『皆さんに伝えなければならないことがあります』
パソコンから流れる音声だけが広間に響く。
『三日後、私はこの本丸から離れます。新しい審神者は私よりも霊力が高い人です。きっと、私なんかよりも貴方たちに良い指示や刀装を与えることができると思います』
息をのんだのは一体誰なのだろうか。
顔を上げた彼女が浮かべていたのは、今までとは全然違う虚ろな笑顔だった。
『皆さん、今まで本当に申し訳ありませんでした。三日後からはもっと良い環境になると思います』
そう言ってからまだ白い顔で立ち上がると掴みあったままの同田貫と和泉守を離れさせてその笑顔のまま首を横に振る。
『三日後までは、自由行動になります。・・・それと大変申し訳ないのですが、どなたか一人か二人、護衛として来てもらわないといけない規則があるそうです。こんな愚鈍な私ですがついてきてくださる方が居ましたら明日の朝、私の部屋の前まで来てください』
ゆっくりとお辞儀をして、審神者は部屋を去ろうとする。
そして、その体がふらりと倒れた。
「あぶねっ・・・」
揺らいだその体を同田貫が支える。和泉守が出そうとした手は、御手杵が本体の柄の部分で弾いた。
「お前さ、今まで散々コイツに色々言ってきたのに今更何しようとしてんだよ」

そこで刀剣男士たちは思いだしたのだ。
ここの主と彼らは同類なのだと。

「こんのすけ」
「はい、何でしょうか同田貫様」
「コイツに着いていくのは俺と御手杵だ。それ以外は絶対に部屋に近づけるな」
ギリッと『元』仲間たちを睨みつけ審神者を抱き上げて広間を後にする。

「かしこまりました!同田貫様!」

こんのすけはそれはそれは嬉しそうに声を上げ御手杵と共に同田貫の後を追った。

―――

・・・本当に良かったんですか?ついてきて

良いって言ってんだろ。何回それを聞くんだよお前は

それが主のいいところでもあるんだけどな

誰かにそう言ってもらえるのが初めてなので、ごめんなさい・・・

何度謝れば気が済むんだか

お前の言葉を借りるならそれが『主のいいところ』なんだろ

ふふ、やっぱり二人は仲良しですね


あるじさま!おしごとおわりましたよ!

真作の俺にさせる仕事じゃないよ、まったく。


はい、二人ともご苦労様でした。

主様!出陣していた第一部隊が戻りました!

本当ですか?それではみなさんでお茶にしましょう。

しゃあねえ、付き合ってやるか

素直じゃねえなぁ。そういうの好きなくせに