前世振り、何度目かのプロポーズ
私には前世の記憶があります。
それを思い出した時、家族構成と親戚関係が前世と一緒で笑った。
先に前世を思い出していたらしい長男と四男との様々な会議の結果・・・前世の記憶を活かして楽しい第二の人生(物理)を始めることにしたのだ。
所謂強くてニューゲーム的なアレだね。
前世の記憶で一番強い所と言えばやはり審神者業やっていた時だ。
御手杵が幼馴染と言う名の腐れ縁で笑った。同田貫と獅子王も居た。
彼らは私の本丸の刀剣なんだろうか?と思ったけど兄曰く自分の本丸の所の奴だったら感覚で分かる、との事なので彼らの主は別にいるんだろう。見つかるといいね。
そんなこんなで小学校中学校と飄々とやらかしていたらいつの間にか問題児扱いになっていた解せぬ。
ついでに御手杵とはガチ腐れ縁状態で幼稚園から高校まで一緒ってどういうことなの。クラスも見事に一緒だった。笑った。
そんな時に、私はようやく自分の本丸の刀剣を見つけたのだ。
「何か質問はありますか?」
「はい」
「・・・木庭さん、ですね。何でしょうか」
「先生に一目惚れしました。結婚前提に付き合ってください」
高校1年生の春。クラスの担任が蜻蛉切でした!というぶっ飛んだ展開でな!!
おおっと初対面でのプロポーズなんてまるで前世と同じじゃないか。これだから問題児扱いされるんだな、ははっ。
まぁもちろんのごとく軽く流されてしまったがこんなことでめげる私じゃない。
前世の経験+今世での経験のおかげでこっちは鋼メンタル。SANチェックも余裕で回避できるレベルなんだからな!!
そんなある日のことだ。
「木庭さん、俺と付き合ってくれないかな?」
ホールで腐れ縁組とぎゃいぎゃい騒いでいたところ、いろんな意味で有名な男子生徒が声をかけてくる。
「あー、それって告白ってこと?」
「はぁ!?この男女のどこに・・・いってえ!」
手早く御手杵の脇腹に手刀を入れて男子生徒を見上げる。
うーん、こいつ悪い噂しかないんだよなぁ。
「悪いけど無理」
サラッと言い放って手元のスマホに目を落とす。
おおっと、兄貴からテスト範囲の事前情報いただけましたねぇ。と心の中でゲス顔。
ちなみに長男はこの高校で生物教師をやっている。蜻蛉切は日本史だ。
男の顔が引きつった。
彼はぶっちゃければイケメンだ。王子様フェイス。
私が今つるんでいる御手杵や同田貫と比べたらこっちの男がイケメンだ!という女は多いと思う。
私は思わんけどな!
前世からの引継ぎというよりは私は蜻蛉切が好きだ。大好きだ。愛してる。
今世で蜻蛉切見つからなかったら独り身で人生終わらせる覚悟があったくらい大好きだ。
そしてようやく見つけたので逃がしませんぜ!
「ちなみに・・・なんで・・・?」
袖にされたことなんてないんだろう、男は口元に笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
ちなみにその笑い方は私も大得意だ。
おんなじように口だけ笑ってやる。
「私、自分より弱い男には興味ないの」
そっちで同田貫と獅子王が吹き出した。
その理由で言うとこのメンバー辺りが最低ラインになる。私は蜻蛉切一択だけどね!
そう、悪かったね。と男はあっさり引き下がる。
「何で断ったんだよ。今から稽古つけてやれば・・・ギリギリのラインくらいにはなるんじゃねえの?」
「黙れギネ。・・・アイツ悪い噂しか聞かないよ。善良な女の子を食っては捨ててるとかね」
「お前当てはまらねえな」
今度は同田貫の米神めがけて手刀突っ込んでおいた。
翌日から分かりやすーい嫌がらせが始まった。
あの男が直にやってるのか、それともあの男を好きな女がやっているのか。
数日経った後のこと、靴箱の中の上履きは泥まみれで・・・何か虫もいるんだけど、きしょくわるっ。
「あ、木庭じゃねえか。何してんだよ」
「あー、たぬ君や。見てくれよ」
誰がたぬだ、と文句は言うが彼は結構真面目である。靴箱を覗き込んでうげ、と声をもらした。
「この前のか?」
「多分ねぇ」
どうしようかなぁと思っていたらふと視線を感じ、目だけをそちらに向ける。
これまたあんまり噂のよろしくない女子生徒だ。
ニヤニヤと悪意満載の顔で笑っている。
「・・・ナメやがって」
ポツリと呟けば同田貫は何かを察したのかそっと距離を取った。
私は泥まみれの上履きを片方、ぎこちない動作を装って取り出し、
「うわああああああああああああああああああああああああ!?」
悲鳴を上げて全力投球する。
上履きは結構なスピードを叩きだし、こちらを見ていた女子生徒の胸元にぶつかった。
内心顔面狙ってやればよかったと舌打ちしつつ、慌てた演技でその女に「大丈夫ですか!?」と声をかける。
「な・・・なっ・・・」
泥まみれの上履きが廊下にことりと落ちる。
私が上げた悲鳴を聞きつけてわらわらと人が寄ってくる。
「今回は今ので許してあげるよ。でも、次やったらこれじゃあ済まないからね?」
前世で化け物と殺り合った鋼メンタルを侮られたら困る。
「あ、蜻蛉先生おはようございます!」
騒ぎ過ぎたかー。でも教室に着く前に蜻蛉切の顔を見られたので良しとしよう。
女子生徒は私の今の可愛いお願いでガタガタしちゃってるので、同田貫が前に出て来てくれて説明してくれた。
「木庭の上履きが泥と虫まみれにされてたんだよ。そんでこいつが慌てたのかぶん投げちまってそいつにぶつかったんだ」
同田貫の話を聞いていた蜻蛉切は人が集まってきてしまったのを払っている。
「やだやだ、悪い男だねぇ」
「へっ、てめぇに言われたくねえな」
「それもそうだ」
「次回の生物のテスト範囲」
「加えて焼きそばパンでどう?」
その間にこの会話。そして同田貫と顔を見合わせてニヤリと笑いあう。
この男のこういう所は嫌いじゃない。
同田貫正国という刀剣は、戦バカではあれど本当に馬鹿ではない。
むしろ頭の回転は速く賢い部類だと思う。
「んじゃまーちょっくら職員室でも行ってくるかー。兄貴に言ってスリッパでも借りてこよ」
まぁある意味通告みたいなもんよね。兄貴を使うのにも別に抵抗も何にもないからね!
「木庭さん」
「はい?」
蜻蛉切が寄ってきたかと思うとホールにある椅子を示す。
「自分がスリッパを持ってきますのでそちらで待っていなさい」
「あ、はい」
生まれ変わっても、記憶がなくなっても、変わらないんだなぁ。
蜻蛉切が職員室に戻っていくのを椅子に座ってぼうっと見送る。
「おい、大丈夫か?」
普段と様子が違う私を見て、同田貫が心配そうな声をかけてくる。
「ん、ちょっとスイッチ入っただけ」
あの時は3か月だったかな。
うーん、今世は教師と生徒だからなぁ。
「年単位は覚悟、かな」
クスクスと笑って私は蜻蛉切が戻ってくるのを待った。